【最新】相続税の期限は延長できる? 新型コロナの影響による特例を税理士が解説
「相続人のうちに、発熱などの体調不良者がいるため、相続人間の話し合いができない。」
「銀行の窓口で、コロナの影響で資料準備に2か月かかる、と言われてしまった。」
「法務局でも、コロナの影響で対面での登記相談は停止している、と言われてしまった。」
などの理由により、相続税の申告期限に間に合いそうもないけどどうすれば良いですか?
ここ最近、新型コロナウイルス感染症の流行により、このような相談が増えています。
相続税の申告期限は『相続の開始を知った日の翌日から10か月以内』と定められており、この期限までに申告と納税ができないと、ペナルティとして加算税や延滞税が課されてしまう場合があります。
※加算税・延滞税については、こちらのコラム参照
『相続税の申告を放置した場合のペナルティ(延滞税・加算税)について』
ですが、申告期限に間に合いそうもない場合でも、それが、「やむを得ない事情によるもの」と認められる場合は、個別に申告・納付の期限が延長される特例があります。
今回は、新型コロナウイルス感染症の影響による相続税の期限延長特例について、税理士が解説します。
1.新型コロナウイルス感染症の影響による相続税の期限延長特例の概要
国税庁は、蔓延する新型コロナウイルス感染症の影響を受けて、令和2年4月に「相続税の申告・納付に係る個別指定による期限延長手続きに関するFAQ」というものを公表しており、要点をまとめると次のとおりとなります。
期限延長が認められる事由とは? | 新型コロナウイルス感染症の影響により、 相続税を申告期限までに申告できないと認められる場合 |
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期限延長が認められる期間は? | その理由のやんだ日から2か月以内 |
相続税の納期限はいつになるのか? | 期限延長により申告書を提出した日が納期限となる |
期限延長の申請方法は? | 申告書の右上の余白に、その旨を付記する |
以下、それぞれの項目について、具体的に説明します。
2.期限延長が認められる事由とは?
新型コロナウイルス感染症の影響により、相続税を申告期限までに申告できないと認められる場合とは、具体的には次のような事由が考えられます。
- 新型コロナウイルス感染症に感染した。
- 新型コロナウイルス感染症に感染はしていないが、不安が大きく体調がすぐれない。
- 新型コロナウイルス感染症に感染しないよう、外出を控えている。
などの理由により、
- 戸籍や印鑑登録証明書などの必要書類を準備することができない。
- 相続人が集まることができず、遺産分割協議を行うことができない。
- 税理士との打ち合わせを行うことができない。
※申請の際に、これらの具体的な事由を記すことは求められていませんので、要件は緩やかで、期限までに申告できない理由が新型コロナウイルス感染症の影響によるものであれば、広く認められると考えてよいでしょう。
3.期限延長が認められる期間とは?
新型コロナウイルス感染症の影響による特例で認められる期限延長の期間については、次のように説明されています。
新型コロナウイルス感染症の影響により、期限内に申告することが困難な場合には、そのやむを得ない理由がやんだ日から2か月以内の日を指定して、その期限が延長されることになります。つきましては、相続税の申告書を作成・提出することが可能となった時点で申告を行ってください。
「やむを得ない理由がやんだ日」を個々に判定することは現実的には困難であることから、このような取り扱いになっているものと考えられ、この取り扱いが変わらない限り、実質的に無期限で期限延長が認められる、と考えていいでしょう。
4.相続税はいつまでに納付すればいいのか?
新型コロナウイルス感染症の影響による期限延長申請をして、相続税の申告をする場合の、相続税の納付期限は、
申告書の提出日 = 相続税の納付期限
となりますので、注意が必要です。
つまり、通常は、「申告書の提出→相続税の納付」という順となる場合がほとんどですが、この延長特例を申請した場合は、「相続税の納付→申告書の提出」という順で行わないと、うっかり延滞税がかかることになりかねない、ということです。申告書を提出する前に納税をすることは全く問題ありませんので、申告の準備が整ったら、提出前に納付を完了するよう心掛けましょう。
5.期限延長の申請方法は?
新型コロナウイルス感染症の影響による相続税の期限延長申請は、次のとおり簡易的な方法によることが認められています。
※右上の余白に「新型コロナウイルスによる申告・納付期限延長申請」と記載する申告書は、相続税申告書の「第1表」のほか、相続人が複数いる場合はその他の相続人の名前が記載されている「第1表(続)」にも記載した方が確実でしょう。併せて、これらの「控え」についても、忘れずに記載するようにしましょう。
6.具体事例(ケーススタディ)
(1):本来の相続税の申告期限 | 令和2年8月10日 |
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(2):(1)の期限に間に合わない理由 | 新型コロナウイルス感染症の影響により、相続人が集まることができず、遺産分割協議が整わない。 |
(3):実際に申告書を提出できた日 | 令和3年4月10日 |
(4):相続税の納付期限 | 同上 |
(5):解説 | 本来の申告期限より8か月遅れての申告であるが、新型コロナウイルス感染症の影響による期限延長申請により、申告期限内の提出として取り扱われ、無申告加算税や延滞税が課せられることはない。ただし、令和3年4月10日が納付期限となるため、事前に相続税の納付を済ませておく必要がある。 |
7.その他の注意点(Q&A形式による)
Q1:相続人が複数いて、新型コロナの影響を受ける人と受けない人がいる場合でも、全員が期限延長特例を受けられますか?
A1:新型コロナウイルス感染症の影響による期限延長特例は、相続人ごとにその理由が判定されるため、実際に新型コロナウイルス感染症の影響を受ける相続人についてしか認められませんので注意が必要です。全員について延長申請をする場合は、税務署から確認がある場合も考えられますので、事前に相続人全員でしっかりとその旨を共有しておくといいでしょう。
Q2:宅地について小規模宅地等の減額特例の要件に、「申告期限まで居住を継続する」 「申告期限まで事業を継続する」などの継続要件があるものがありますが、この期限延長特例を申請した場合は、いつまで継続しなければならないでしょうか?
A2:新型コロナウイルス感染症の影響による期限延長特例を申請した場合には、本来の申告期限に代えて、実際の申告書の提出日が申告期限になるものと考えられますので、実際に申告書を提出する日まで継続した方が安全です。万一、実際の申告期限までは継続していたが、その後申告書を提出する前に売却などをしてしまった場合には、適用が取り消される恐れがあります。この考え方については、明文化されていませんので、事前に所轄の税務署に確認した方がいいでしょう。
8.終わりに
これまで、相続税の新型コロナウイルス感染症の影響による期限延長特例について解説してきました。『新型コロナウイルス感染症』は、世界中で深刻な問題となっている事象ですので、延長特例を申請に必要な要件は緩やかで、その手続きも簡易な方法で行うことができる措置が施されていますが、今後の社会情勢により、この取り扱いがいつまで続くのか、要件などが変更されることはないのか、留意していく必要があると思われます。
一例として、税務署における税務調査は、新型コロナウイルス感染症の影響により、その実施がしばらく見合されていましたが、令和2年9月に次の感染防止策を公表することにより、令和2年10月から、税務調査が再開されました。
相続税の申告書作成には、専門的な知識が必要とされますので、この延長特例申請についてはもちろんのこと、各種財産評価や特例適用の有無についてなど、少しでも不安がある場合は専門家である税理士、その中でも特に相続税に強い税理士に相談されることをお勧めします。
当事務所には、相続税に精通したスタッフが複数在籍していますので、ちょっとしたご質問、ご相談でも構いませんので、お気軽にご相談ください。随時、無料相談も実施しています。