相続税の申告期限は延長できる?期限延長特例について税理士が解説
相続税の申告期限は『相続の開始を知った日の翌日から10か月以内』と定められており、この期限までに申告と納税ができないと、ペナルティとして加算税や延滞税が課されてしまう場合があります。
※加算税・延滞税については、こちらのコラム参照
『相続税の申告を放置した場合のペナルティ(延滞税・加算税)について』
ですが、申告期限に間に合わない場合でも、それが、「災害等のやむを得ない事情によるもの」と認められる場合は、個別に申告・納付の期限が延長される特例があり、新型コロナウイルスが2類感染症に分類されていた令和5年5月7日までは、「新型コロナによる影響」が「やむを得ない事情」として認められていたため、相続税の新型コロナの影響による個別の期限延長が全国的にも相当数認められたものと思われます。
ところが、令和5年5月8日以降、新型コロナウイルスが5類感染症に分類されたことに伴い、「新型コロナによる影響」が期限延長のための「やむを得ない事情」とは認められないこととなり、新型コロナの影響によるという理由では、個別の期限延長が認められなくなってしまいました。
したがって、今後は、従来の基準により「災害等のやむを得ない事情によるもの」に該当するか否かが判定されることとなり、ある程度大規模な天災によるものを除いては、個別の事情による期限延長は難しくなったと考えていいでしょう。
以下は、仮に「災害等のやむを得ない事情によるもの」と期限延長が認められる場合について、関連事項の解説を行いたいと思います。
1.災害等のやむを得ない事情による相続税の期限延長特例の概要
個別の期限延長特例について、要点をまとめると次のとおりとなります。
期限延長が認められる事由とは? | 災害等のやむを得ない事情により、相続税を申告期限までに申告できないと認められる場合 |
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期限延長が認められる期間は? | その理由のやんだ日から2か月以内 |
相続税の納期限はいつになるのか? | 期限延長により申告書を提出した日が納期限となる |
期限延長の申請方法は? | 『災害による申告、納付等の期限延長申請書』を、相続人ごとに提出する。 |
以下、それぞれの項目について、具体的に説明します。
2.期限延長が認められる事由とは?
期限延長が認められる理由は、災害等のやむを得ない事情に限られるため、地震や洪水などのいわゆる天災(自然災害)が該当し、それ以外の事由については、原則として認められないと考えた方がいいでしょう。
繰り返しとなりますが、新型コロナウイルスが5類感染症に分類された令和5年5月8日以降は、「新型コロナによる影響」は、期限延長の理由としては認められなくなりましたので、注意が必要です。
3.期限延長が認められる期間とは?
災害等のやむを得ない事情により認められる個別の期限延長の期間については、国税庁ホームページにおいて、次のように説明されています。
災害その他やむを得ない理由によって、期限までに申告、納付等ができないときは、納税地の所轄税務署長に申請することにより、その理由のやんだ日から2か月以内に限り、申告、納付等の期限が延長されます。
4.相続税はいつまでに納付すればいいのか?
災害等のやむを得ない事情による個別の期限延長申請をして、相続税の申告をする場合の、相続税の納付期限は、
申告書の提出日 = 相続税の納付期限
となりますので、注意が必要です。
つまり、通常は、「申告書の提出 → 相続税の納付」という順となる場合が多いと思われますが、この延長特例を申請した場合は、「相続税の納付 → 申告書の提出」という順で行わないと、うっかり延滞税がかかることになりかねない、ということです。申告書を提出する前に納税をすることは全く問題ありませんので、申告の準備が整ったら、提出前に納付を完了するよう心掛けましょう。
5.期限延長の申請方法は?
災害等のやむを得ない事情による個別の期限延長申請をする場合には、
災害による申告、納付等の期限延長申請書
を、延長申請をする相続人ごとに提出する必要があります。
【参考】申請書及び「新型コロナによる影響」が認められていた期間における記載例
「災害による申告、納付等の期限延長申請書」
「記載例(国税庁)」
なお、申請書の提出時期は、
- 事前申請
- 申告書と同時に提出
のいずれかによることとなります。
②が認められているため、実務上は②を採用することが多くなるでしょう。
後からの追加提出は認められないため注意が必要です。
6.具体事例(ケーススタディ)
(1) :本来の相続税の申告期限 | 令和6年8月10日 |
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(2) :(1)の期限に間に合わない理由 | 災害等やむを得ない事情により、必要書類の準備や税理士への相談ができない。 |
(3) :実際に申告書を提出できた日 | 令和7年4月10日 |
(4) :相続税の納付期限 | 同上 |
(5) :解説 | 本来の申告期限より8か月遅れての申告であるが、災害等やむを得ない事情による個別の期限延長申請により、申告期限内の提出として取り扱われ、無申告加算税や延滞税が課せられることはない。ただし、令和7年4月10日が納付期限となるため、事前に相続税の納付を済ませておく必要がある。 |
7.その他の注意点(Q&A形式による)
Q1:相続人が複数いて、災害によるやむを得ない事情による影響を受ける人と受けない人がいる場合でも、全員が期限延長特例を受けられますか?
A1:個別の期限延長特例は、相続人ごとにその理由が判定されるため、実際に災害によるやむを得ない事情による影響を受ける相続人についてしか認められませんので注意が必要です。相続人全員について延長申請をする場合は、税務署から確認がある場合も考えられますので、事前に相続人全員でしっかりとその旨を共有しておくといいでしょう。
Q2:宅地について小規模宅地等の減額特例の要件に、「申告期限まで居住を継続する」「申告期限まで事業を継続する」などの継続要件があるものがありますが、この期限延長特例を申請した場合は、いつまで継続しなければならないでしょうか?
A2:災害によるやむを得ない事情による個別の期限延長特例を申請した場合には、本来の申告期限に代えて、実際の申告書の提出日が申告期限になるものと考えられますので、実際に申告書を提出する日まで継続した方が安全です。万一、実際の申告期限までは継続していたが、その後申告書を提出するまでの間に売却などを行うこととなった場合には、適用が認められない恐れがあるため、不安がある場合は、事前に所轄の税務署に確認した方がいいでしょう。
8.終わりに
ここまで、相続税の新型コロナウイルス感染症の影響による個別の期限延長特例が認められていた期間について振り返りながら、現在の相続税の災害等のやむを得ない事情による個別の期限延長特例について解説してきました。
「災害等のやむを得ない事情」に該当するか否かは、個々の事情により、その判断が難しい場合も考えられるため、そのような場合は所轄の税務署に事前確認をしたほうがよいでしょう。
相続税の申告書作成には、専門的な知識が必要とされますので、この個別の期限延長申請についてはもちろんのこと、各種財産評価や特例適用の有無についてなど、少しでも不安がある場合は専門家である税理士、その中でも特に相続税に強い税理士に相談されることをお勧めします。
当事務所には、相続税に精通したスタッフが複数在籍していますので、ちょっとしたご質問、ご相談でも構いませんので、お気軽にご相談ください。随時、無料相談も実施しています。
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監修者
税理士法人根本税理士事務所里 孝(さと たかし)
税法用語に精通している強みを生かした「税務署担当者の腑に落ちる(納得する)相続税申告書の作成」がモットー。税務調査の立会経験も豊富。