【徹底解説】法務局の自筆証書遺言書保管制度の内容と進め方
これまでの自筆証書の遺言書の保管は、自宅や銀行の貸金庫などにされているケースが多くありました。しかし、以前から、遺言書の紛失や相続人による遺言書の廃棄・改ざんのおそれがあることが問題となっていました。そこで、2020年7月10日より、自筆証書の遺言書を法務局(遺言書保管所)で保管できる制度が創設されました。
今回のコラムでは、この法務局での自筆証書の遺言書の保管制度の概要を、税理士が解説します。
1.保管申請の流れ
(1)自筆証書の遺言書を作成する
下記URLにて記載方法を確認し、注意事項をよく確認しながら、遺言書を作成するようにしましょう。
http://www.moj.go.jp/content/001318459.pdf
(2)保管申請をする法務局を決める
保管申請できる法務局は、下記のいずれかを管轄する法務局となります。
- 遺言者の住所地
- 遺言者の本籍地
- 遺言者が所有する不動産の所在地
※既に他の遺言書を法務局に預けている場合には、その法務局になります。
(3)遺言書の保管申請書を作成する
事前に下記URLから申請書をダウンロードして、必要事項を記入しておきましょう。
http://www.moj.go.jp/content/001321933.pdf
記載例はこちら
http://www.moj.go.jp/content/001321953.pdf
(4)保管申請の予約を行う
保管申請は、原則即日処理されるため、予約が必要となります。
なお、予約なしで法務局に行った場合でも、申請を受け付けてもらえますが、長時間待たされることや、その日中に手続きができないこともありますので、事前予約したうえで、法務局に向かうのが良いでしょう。
また、申請予約は、以下の方法で行うことができます。
- 専用HPからの予約
https://www.legal-ab.moj.go.jp/houmu.home-t/ - 電話又は窓口における予約
平日8:30~17:15まで(土・日・祝日・年末年始を除く。)
電話番号や所在地の確認は下記URLでご確認下さい。
http://www.moj.go.jp/content/001322714.pdf
(5)保管申請を行う
予約した日時に、遺言者本人が下記書類を持参のうえ、事前に決めておいた法務局で申請手続を行います。
必要書類
- 遺言書
ホチキス止めはしないようにします。 - 遺言書の保管申請書
- 本籍の記載のある住民票の写し等(作成後3ヶ月以内のもの)
- 本人確認書類(有効期限内のものをいずれか1点)
マイナンバーカード、運転免許証、運転経歴証明書、パスポートなど - 手数料3,900円(必要な収入印紙を手数料納付用紙に貼ってください。)
手続終了後、遺言者の氏名、出生の年月日、遺言保管所の名称及び保管番号が記載された保管証がもらえます。保管証は再発行できないので、大切に保管するようにしましょう。
2.変更の届出
遺言者は、保管申請時以降に氏名・住所等に変更があったときは、法務局にその旨を届け出る必要があります。
変更の届出は、遺言者本人以外にも、遺言者の親権者や成年後見人等の法定代理人もすることが可能で、全国どこの法務局でも届出可能です(郵送による届出もOK)。
なお、変更の届出には、手数料はかかりません。
必要書類
- 変更届出書
http://www.moj.go.jp/content/001321936.pdf
記載例はこちら
http://www.moj.go.jp/content/001321956.pdf - 変更が生じた事項を証する書面(住民票の写し、戸籍謄本等)
- 請求人の身分証明書のコピー
※法定代理人が届出をする場合は、作成後3ヶ月以内の戸籍謄本(親権者)又は登記事項証明書(後見人等)が必要となります。
※遺言者本人以外の氏名、住所等に変更があった場合は、添付書類は不要ですが、正確な通知のために住民票等で確認したうえで届出をするようにしましょう。
3.保管申請の撤回
遺言者は、法務局に保管されている遺言書について、保管申請の撤回をすることにより、遺言書の返還等を受けることができます。
遺言書の保管申請の撤回ができるのは遺言者本人のみで、遺言書の原本が保管されている法務局でのみ撤回の手続が可能です。
なお、遺言書の保管申請の撤回には、手数料はかかりません。
必要書類
- 遺言書の保管の申請書の撤回書
http://www.moj.go.jp/content/001321935.pdf
記載例はこちら
http://www.moj.go.jp/content/001321955.pdf - 運転免許証などの顔写真付きの身分証明書
4.遺言書の閲覧
遺言者又は相続人等(相続人、受遺者等、遺言執行者等や左記の親権者・成年後見人等の法定代理人)は、遺言書の閲覧を請求して、法務局で保管されている遺言書の内容を確認することができます。
なお、遺言者本人はいつでも閲覧請求可能ですが、相続人等は遺言者が亡くなった後でないと閲覧請求することができません。
閲覧の方法は、遺言書原本の閲覧(遺言書が保管されている法務局のみ)又はモニターによる遺言書の画像等の閲覧(全国どこの法務局でも可能)となります。
相続人等が遺言書を閲覧した場合、その方以外の相続人等に対して、遺言書が保管されている旨の通知が行われます。
遺言書原本の閲覧には1回につき1,700円、モニターによる閲覧には1回につき1,400円の手数料がかかります。
必要書類
- 遺言書の閲覧の請求書(遺言者用)
http://www.moj.go.jp/content/001321934.pdf
記載例はこちら
http://www.moj.go.jp/content/001321954.pdf - 遺言書の閲覧の請求書(関係相続人等用)
http://www.moj.go.jp/content/001321944.pdf
記載例はこちら
http://www.moj.go.jp/content/001321960.pdf - 運転免許証などの顔写真付きの身分証明書
5.遺言書保管事実証明書の請求
遺言書保管事実証明書の交付の請求をすることで、特定の死亡している者について、自己(請求者)を相続人、受遺者等又は遺言執行者等とする遺言書が法務局に保管されているかを確認することができます。
証明書の請求は、相続人、遺言執行者等、受遺者等や左記の親権者・成年後見人等の法定代理人がすることが可能で、全国どの法務局でも交付請求可能です(郵送による届出もOK)。
交付請求の手数料は、1通につき800円です。
必要書類
- 遺言書保管事実証明書の交付請求書
http://www.moj.go.jp/content/001321945.pdf
記載例はこちら
http://www.moj.go.jp/content/001321961.pdf - 遺言者の死亡の事実を確認できる戸籍(除籍)謄本
- 請求人の住民票の写し
- 相続人が請求する場合は、遺言書の相続人であることを確認できる戸籍謄本
※法人が請求する場合は、法人の代表者事項証明書(作成後3ヶ月以内)
※法定代理人が請求する場合は、戸籍謄本(親権者)や登記事項証明書(後見人等)(作成後3ヶ月以内)
6.遺言書情報証明書の請求
相続人等は、遺言書情報証明書の交付の請求をすることで、法務局に保管されている惟本書の内容の証明書を取得することができます(遺言者が亡くなられている場合に限られます)。
証明書の請求は、相続人、遺言執行者等、受遺者等や左記の親権者・成年後見人等の法定代理人がすることが可能で、全国どの法務局でも交付請求可能です(郵送による届出もOK)。
相続人等が証明書の交付を受けた場合、その方以外の相続人等に対して、遺言書が保管されている旨の通知が行われます。
交付請求の手数料は、1通につき1,400円です。
必要書類
- 遺言書情報証明書の交付請求書
http://www.moj.go.jp/content/001321938.pdf
記載例はこちら
請求人が個人の場合 http://www.moj.go.jp/content/001321958.pdf
請求人が法人の場合 http://www.moj.go.jp/content/001321959.pdf - 法定相続情報一覧図(住所の記載があるもの)
※法定相続情報一覧図に住所の記載が無い場合は、相続人全員の住民票の写し(作成後3ヶ月以内)も必要となります。
※法定相続情報一覧図が無い場合は、以下の資料がすべて必要となります。
ア 遺言者の出生時から死亡時までの全ての戸籍(除籍)謄本
イ 相続人全員の戸籍謄本
ウ 相続人全員の住民票の写し(作成後3ヶ月以内)
- 法人が請求する場合は、法人の代表者事項証明書(作成後3ヶ月以内)、法定代理人が請求する場合は、戸籍謄本(親権者)や登記事項証明書(後見人等)(作成後3ヶ月以内)が必要となります。
なお、遺言書を保管している旨の通知を受けた人が請求する場合は、②の書類の添付は不要です。
7.Q&A
法務局で遺言書の書き方を教えてもらえますか?
法務局では遺言書の作成に関する相談は一切できません。
保管申請をしたいが、遺言者本人が病気のため法務局へ出頭できない場合はどうしたらよいでしょうか?
本人出頭義務を課していることから、このような場合には保管申請をすることができません。
遺言書の保管申請の撤回を行った場合には、その遺言書は無効となるのですか?
遺言書の保管申請の撤回は、法務局に遺言書を預けることをやめることであって、その遺言の効力とは関係ありません。
遺言書情報証明書は、どのような手続に使用できるのでしょうか?
相続登記手続や銀行での各種手続等について、使用することが想定されています。
8.最後に
法務局での自筆証書遺言の保管制度は、遺言書の紛失や相続人による遺言書の改ざんなどの問題を解消した制度となっていますが、以下の課題が残っています。
- 法務局職員は、日付や氏名の記載など形式的チェックしか行わないため、遺言書の内容によっては様々なトラブルが起こる可能性がある。
- 保管申請等の手続は、遺言者本人が法務局(遺言書保管所)に直接出向いて行う必要がある。
特に1.の遺言書の内容に関するトラブルは、今回の保管制度と関係なく以前から数多く発生しています。
例えば、遺言書の内容どおりに遺産を分割することで、多額の相続税が発生してしまうケースや相続人の遺留分(相続人が最低限の遺産を受け取ることができる権利)が侵害され、裁判にまで発展するケースもあります。
折角残した遺言によって「争族」を招いてしまわないよう、遺言書の作成の段階から専門家である税理士に相談しながら作成を進めていくとよいでしょう。
弊所では、遺言者の思いを大切にしつつ、税務的なアドバイスも行いながら、遺言書作成のお手伝いをさせていただいております。
また、初回1時間の無料相談も実施しております。ちょっとしたご質問、ご相談でも構いませんので、ご心配事があるようでしたら、ぜひ一度お電話ください。
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https://edogawa-souzoku.com/contact/
監修者
税理士法人根本税理士事務所牛居 秀晃(うしい ひであき)
資格の大原税理士講座で相続税法科の講師として5年間、累計500人以上の税理士受験生を指導した実績を持つ。
「分かりやすい言葉による説明」を心掛け、相続を専門に扱う市川支社の創設メンバーとして活躍。