「生命保険契約に関する権利」を活用した生前の相続税対策

前回のコラムでは、生命保険金の非課税枠を活用した相続税対策のお話をしました。
今回は生命保険契約に関する権利のお話です。

「生命保険契約に関する権利」とは、聞きなれない言葉ですが、 どのような保険なのでしょうか。相続税の取り扱いはどうなのでしょうか。
また、なぜこれが相続税対策になる場合があるのでしょうか。
解説したいと思います。

 

1.「生命保険契約に関する権利」とは?

生命保険に加入する場合には、「契約者」「保険料を支払う人」「被保険者(その保険の対象になる人)」「受取人」を決定します。

例えば、父が契約者で保険料を支払い、被保険者を父、受取人を配偶者にする保険は、 父が亡くなった時に残された遺族の生活を保障する、よくあるタイプの生命保険になります。

今回のお話は、「被保険者(その保険の対象となる人)」が、「故人以外」の場合です。

例えば、母が「被保険者」、父が保険料を支払っているケースで、父に相続が発生した場合には、「被保険者」である母が亡くなったわけではありませんので、父の相続の時に生命保険金の支払いはありません。

契約者 保険料を支払う人 被保険者 受取人
父(故人)

これが「生命保険契約に関する権利」と呼ばれるものになります。

 

つまり、「生命保険契約に関する権利」とは、故人が保険料を負担していて、かつ、故人が被保険者でないので、保険事故が発生していないものを言います。(契約者が故人か、故人以外かは下記で説明します。)

それでは、父が亡くなった場合に、父が支払っていた保険料の相続税の取り扱いは どのようになるのでしょうか。

生命保険金の支払いがないので、「何もない」ということにはなりません。

父が支払った保険料の貯蓄性(定期預金のようなイメージで)に着目して、この生命保険契約の「解約返戻金の額」が相続財産として相続人に課税されます。

相続税申告においても、この「生命保険契約に関する権利」は、生命保険金の支払いがないので、うっかり申告漏れになりやすい財産になります。

「生命保険契約に関する権利」は、相続税法3条1項3号に規定されています。

2.「生命保険契約に関する権利」が2次相続対策になることも

この「生命保険契約に関する権利」が、相続税対策になる場合があります。

なぜこれが相続税対策になるのでしょうか?

生命保険の中には、初期の解約返戻金が低額で、後に解約返戻金が上がるものがあります。

経過年数 年齢 払込保険料(累計) 解約返戻金
1 53歳 100万円 0円
2 54歳 200万円 0円
3 55歳 300万円 0円
4 56歳 400万円 0円
5 57歳 500万円 50,000円

この図はイメージです。実際の保険商品については、保険会社にお問合せください。

この故人が支払った「払込保険料」と「解約返戻金」との差額が、結果的に、相続税評価額を引き下げることになる場合があります。

上の図で、加入後5年に父が亡くなった場合には、父の払い込み保険料500万円に対して、解約返戻金の額は5万円になります。

つまり、父の財産が500万円減って、相続財産に加算されるのは5万円ということになります。

また、故人(父)が生存中に保険料を全額支払い、払い済みにすることができる保険もあります。
こうすれば、故人(父)の資金で、母の生命保険契約が出来上がり、受取人を長男などにすることにより、結果的に、母の相続税対策(2次相続対策)になります。

3. 「契約者」により、「みなし相続財産」か「本来の相続財産」になる

生命保険契約は、「契約者」が契約上の権利と義務を有します。

生命保険契約に関する権利は、「保険料を支払う人」は、「故人」 の前提になりますが、「契約者」 が 「故人以外」 又は 「故人」 により、民法上の取り扱いが異なります。

(1)「契約者」 が 「故人以外」 の場合 (契約者 ≠ 保険料負担者)

例えば、母が契約者で、父(故人)が保険料を支払っていた場合は、母は故人が支払った保険料を引き継ぎ、保険契約は継続します。
この場合の「生命保険契約に関する権利」は、「みなし相続財産」となり、遺産分割や遺言なくして、契約者である母が承継することになります。
また、下記図のように受取人を変更することもできます。 相続税では、父の相続(一次相続)の際は、「解約返戻金の額」が母に課税されますが、 母の相続(二次相続)の時は、長男に保険金を残すことができます。

契約者 保険料を支払う人 被保険者 受取人
父(故人)

 

相続発生後

契約者 保険料を支払う人 被保険者 受取人
母(相続で承継) 長男

契約者は母のまま、受取人を長男に変更します。
父が保険料を払い済みにしていた場合は、母は保険料を払うことなく、受取人を長男とする保険になります。

(2)「契約者」 が 「故人」 の場合 (契約者 = 保険料負担者)

契約者が故人である場合の生命保険契約に関する権利は、故人の「本来の財産」となります。
この場合は、遺産分割遺言によって、この保険契約を相続する人を決定することになります。
その後、契約者、受取人を変更することになります。
相続税ではこちらも「解約返戻金の額」が相続人に課税されます。 >

契約者 保険料を支払う人 被保険者 受取人
父(故人) 父(故人)

 

相続発生後
遺産分割や遺言により承継者を確定

契約者 保険料を支払う人 被保険者 受取人
長男

契約者を母に変更します。

4.「生命保険契約に関する権利」のQ&A

Q1:父は自己を契約者及び受取人、長男である私を被保険者とした生命保険契約に加入して、保険料を払い続けてきました。
この度、最後の保険料を支払ったタイミングで、契約者を私に変更したようです。
この場合、私に「生命保険契約に関する権利」の贈与があったものとして贈与税が課税されますか?
また、私がこの生命保険契約を解約して、解約返戻金を受取った場合には課税が生じますか?

A1:この場合は「保険料の支払者(父)」または「被保険者(長男)」が死亡しない限り課税関係が生じないことになっていますので、契約者を父から長男に変更してもその時点で贈与税は課税されません。
将来、保険料支払者である父が死亡した場合に、「生命保険契約に関する権利(みなし相続財産)」として、契約者の長男に相続税が課税されます。
なお、契約者変更後に長男がその保険契約を解約し、解約返戻金を取得した場合には、長男は解約返戻金相当額を保険料負担者である生存中の父から「贈与」により取得したものとみなされて、贈与税が課税されます。
また、父より先に長男が死亡した場合には、父に所得税が課税されます。

Q2:この度、夫が死亡し、「生命保険契約に関する権利」を相続により取得しました。
次のような生命保険契約がある場合は、相続税申告において、「みなし相続財産」として解約返戻金の額が課税の対象となるようです。
保険料支払者:夫  契約者:妻(私)  被保険者:妻(私)  受取人:長男
ここで、相続税申告において、死亡保険金には、「500万円×法定相続人の数」の非課税枠があると聞きましたが、私が相続した「生命保険契約に関する権利」には、非課税枠はないのでしょうか?

A2:生命保険契約に関する権利を取得した場合に、非課税枠の適用はありません。
非課税枠の適用があるのは、相続税法第3条1項1号に規定する次のような保険金(いわゆる「死亡保険金」)になります。
保険料支払者:被相続人  被保険者:被相続人  受取人:相続人
被相続人(夫)が、遺された遺族のために、自身を被保険者として加入する生命保険契約から支払われる死亡保険金が、非課税枠の対象となります。

Q3:下記(Q2と同じ)のような生命保険契約で、妻(私)が夫より先に死亡した場合に、長男が受取る死亡保険金はどのような税金がかかりますか?
保険料支払者:夫  契約者:妻(私)  被保険者:妻(私)  受取人:長男

A3:贈与税が課税されます。
長男からみると、父が負担した保険料を原資として金銭(保険金)を受け取ることになりますので、生存中の父から子への「みなし贈与」として、贈与税が課税されます。

Q4:死亡した父が契約していた家屋の損害保険契約(火災保険・地震保険)について、父がその保険料を向こう数年分一括払い(前払い)していたようです。契約者を長男である私に変更して契約を継続していくこととなりますが、相続税申告に何か影響はありますか?

A4:損害保険契約も解約返戻金がある場合は「生命保険契約に関する権利」の対象となるため、相続発生日における解約返戻金の証明書(試算書)を損害保険会社に発行してもらい、相続税の申告対象とする必要がありますので、ご注意ください。
なお、契約者が被相続人(亡くなった父)であることから、「本来の財産」となり、遺産分割の対象となるため、遺産分割協議書にこの損害保険契約の「生命保険契約に関する権利」は長男が相続する旨の記載が必要となることにも注意が必要です。
また、損害保険契約で保険料が各年払いのいわゆる「掛捨保険」の場合には、一般的に解約返戻金がありませんので、「生命保険契約に関する権利」の課税は生じません。その契約に解約返戻金があるかどうか分からない場合は、相続税の申告漏れを防ぐために、保険会社に問い合わせて確認した方がよいでしょう。

まとめ

相続税対策で500万円の非課税のため、「終身保険」に加入する人は、たくさんいると思います。
また、前回解説したように、これが誰でも出来て、最初にやる相続税対策としては非常に有効です。

次のステップとして、すでに終身保険にしている人で、さらに保険に加入する場合には、この「生命保険契約に関する権利」を考えて、保険を検討しても良いと思います。

ただし、生命保険契約に関する権利の有効活用は、相続発生の時期や保険商品が大きな要素をしめるので、過度に節税するというよりは、「こういうものもあったな」程度が良いと思います。
亡くなる日を前提として、保険に入る人はいないので。

加入の際は、保険会社、税理士などとよく相談の上、実行して頂ければと思います。

参考 相続税法3条1項3号(生命保険契約に関する権利)

相続開始の時において、まだ保険事故(共済事故を含む。以下同じ。)が発生していない生命保険契約(一定期間内に保険事故が発生しなかつた場合において返還金その他これに準ずるものの支払がない生命保険契約を除く。)被相続人が保険料の全部又は一部を負担しかつ、被相続人以外の者が当該生命保険契約の契約者であるものがある場合においては、当該生命保険契約の契約者について、当該契約に関する権利のうち被相続人が負担した保険料の金額の当該契約に係る保険料で当該相続開始の時までに払い込まれたものの全額に対する割合に相当する部分

監修者

税理士法人根本税理士事務所根本 淳一(ねもと じゅんいち)
専門は相続税と不動産税務。
下町エリア独特の細かい土地の評価を得意とする一方、遺産規模10億円をこえる大型案件も実績あり。
不動産オーナー様からの相談実績は年間100件以上。
不動産の売却に係る特例の申告はすべて経験。

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